2023年シーズンにプロ野球DeNAに新加入したトレバー・バウアー投手(32)だが、一体彼のどこが凄いのかに触れてみたいと思う。
まず、投球スタイルだが、右投げのスリークォーターから、常時91~96mph(約146.5~154.5km/h)のファストボールを投じ、変化球は主にスライダー、カッター、カーブ、チェンジアップ、そしてSSW(シームシフトウェイク)を駆使したツーシームを投じる。
どの球種も一級品であり、全てが洗練されているといっても過言ではない。特にスライダーの完成度は素晴らしく、これまで彼がハイスピードカメラとラプソードやトラックマンなどの投球解析システムを駆使して行ってきたPitch Design(ピッチデザイン)の賜物である。
今でこそ、世界的な投手として知られているいる彼だが、数年前まではMLBで特に目立った成績を残すことなく2012年から2017年までのシーズンで防御率が4.0より下回ることはなく、平均的な投手の一人であった。
そんな彼だが、自身で提唱したPitchDesign(ピッチデザイン)に取り組み実践したところ、2018年以降、投手としての結果は飛躍的に向上した。
まさに彼の凄さはこの研究熱心で聡明なところに集約されている。
ここで説明する彼の凄さはほんの一部に過ぎないが、今後の参考になるので、是非とも一読頂きたい。
では、一番の転換期であった2017年から2018年のBrooksBaseballのデータをもとにPitch Desing(ピッチデザイン)によって何が改善されたのかを少し見てみよう。
トラックマンやラプソードなどのトラッキングデータは通常、投手視点からの表示されることが多いが、BrooksBaseballはキャッチャー視点でデータチャートを表しているので注意してください。
2017年のチャートでは合計7種類の球種を投じていますが、スプリット(紫)はシーズン序盤で投げるのを辞めており、スライダー(赤)もシーズン後半の3ヶ月程度しか投じていないため、参考程度のデータとなります。
2017年のチャートでは4シームとシンカーの球速,変化量は非常に似ている。
次にスライダーとカットボールだが、両者ともやはり変化量(特に横方向)が似ており、違いは球速のみのため、スライダーに関しては遅いカットボールと言えそうだ。
彼の提唱するPitch Design(ピッチデザイン)では、上記のような似た球種同士を無くし、球速や変化量をしっかりと分離しその球種固有の変化量、球速を有するのが重要だと述べています。
下記の2018年のチャートではオフシーズンに取り組んだPitch Design(ピッチデザイン)の成果が顕著に現れ、防御率も2017年は4.19だったのが2018年は2.21までに改善した。
それでは、変化をみていきましょう。
まず、2018年は4シームとシンカーの平均球速が2km上がっている。また、昨年までは両方の変化量は曖昧だったが、しっかりと変化量が分離されているのが見て取れる。
スライダーは2017年の球速よりさらに3kmほど遅くしており、これによりカットボールとの球速差がさらに生まれて緩急の幅が広がった。
そして特筆すべきは、スライダーの水平方向への変化量であり、カットボールと比べると平均変化量は3倍ほど異なる。
カットボールに至っては昨年と変化量はほぼ同じだが、球速が3kmほど上がっておりこれにより、完全にスライダーとカットボールはかけ離れた球種と言えそうだ。
最後にカーブをみてみると、昨年と比べて大きく変化していないように見えるが、強く速く投げれているため、垂直方向への変化量が増していて、より洗練されているのが分かる。
2018年以降の結果が飛躍的に向上した要因は、当然上記の変化のみではないが、大きく作用していたのは間違いなさそうである。
また、こうして分析してみると、下記2つのことにのみ重点を置いていたことが分かる。
・平均球速を上げて、変化量を増やす。
・類似した変化性質をもった球種同士は減らし、それぞれの球種で全く異なる球質,変化のボールを投げる
文章にしてしまえばたったこれだが、たった1シーズンでこれだけの改善を行い、結果を出すことができるのはやはりバウアーの凄さであることは間違いなさそうだ。
ここで言及したPitch Design(ピッチデザイン)については、今後もNamazuballで詳しく取り上げて行きたい。
バウアーは2018年以降も順調に成績を伸ばしていき、結局2020年にはサイヤング賞を受賞しており、これには脱帽するほかならない。
そんな彼だが、日本の沢村賞も受賞したいと以前から言っており、今年のNPBでの活躍が非常に楽しみである。